関数・微分方程式がビジュアルにわかる微分積分の展開
数学・物理学・工学の三位一体
「まえがき」から
「微分・積分」といえば,「計算ばかりで面白くなかった」というのが世間一般のイメージであろう。結局,高校でも大学でも「微分・積分」は計算方法しか教えていないのではなかろうか。
微分・積分は解析学と呼ばれて古くから存在する分野である。19世紀にフランスの数学者コーシーが,「極限に始まり,微分法と微分法の応用を解説して,積分法と積分法の応用で終わる」というスタイルを確立して以来,世の中の多くの微分積分の教科書はこのスタイルを踏襲した。それでも,1973年から1995年くらいまでは,高校では積分法の応用の一例として簡単な微分方程式を扱っていた。そのため,その当時の高校生は微分方程式の重要性を知っていた。微分方程式こそ,微分・積分を学ぶ最終目的にしてもしてよいぐらいである。さて,現在の高等学校の数学の最終段階は微分・積分を扱った「数学III」という科目である。現行のこの科目の欠点は微分方程式をあまり扱わないことにある。そこで,本書は微分方程式までを扱った数学III+αの範囲の教科書を作成した。
本書の特徴は,コーシーのスタイル(極限,微分,積分の順に展開するやりかた)をやめて,関数の種類別に,微分・積分・微分方程式を一貫して扱ったことである。微分と積分は不可分の関係にあるという考えから,本書では「微分積分」という表現している。関数の種類別とは,n次関数,無理関数と分数関数,指数関数,三角関数の順に章立てを行い,それぞれの章で微分・積分・微分方程式を一貫して扱ったのである。更に数値計算や複素数,2変数関数も扱った。こういう画期的な構成は,数学教育の現場にはなかなか受け入れられない可能性がある。しかし,コーシーのスタイルでは初めに抽象論が出てきて,実用的なところへ行くまでに学習者は疲れてしまうのである。事実,コーシーの講義はパリ理工科大学では評判が悪かったのである。19世紀に評判の悪かった講義スタイルを21世紀になっても続ける義理はどこにないはずである。
21世紀はコンピュータ全盛の時代である。微分積分の用途別に展開していく教科書のスタイルを便利であると共感して頂けると考えている。しかも関数を無限級数の和で展開(expansion)する考え方を重視するが本書の考え方である。こういう展開(evolution)は数値計算主義のオイラーの考え方に近いかもしれない。オイラーに戻れ(Back to Euler)が本書の目標である。